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Interview

薬ではなく、食で。体を壊した経験から生まれた千葉・香取の柿酢「酵素酢 柿の神髄」

現地取材

千葉県香取市の酢之宮醸造所を訪ね、作り手に直接お話を伺って書いた記事です。

酢之宮醸造所の宮嵜博之さん・和美さん夫婦。手前は天日干し中の柿

体の調子を崩したとき、食べるものを見直そうと思ったことはないでしょうか。

千葉県香取市に、宮嵜博之さん・和美さん夫婦がふたりで営まれている小さな醸造所があります。酢之宮醸造所さん。つくられているのは柿酢です。原料は柿のみで、水は加えないそうです。四季のリズムにまかせて発酵させ、そこから3年以上寝かせるといいます。

この酢は、博之さんがご自身の病気と向き合われた時間から生まれたものだそうです。その原点と、手間のかかる製法を続けてこられた理由を伺いました。

薬が効かなくなって、たどり着いたのは食だった

(以下、特記のない発言は博之さんによるものです)

——柿酢と出会われたのは、伊豆の食養の道場だったと伺いました。

そうです。私はもともとシステムエンジニアで、その後は街づくりの会社にいました。食の世界とはまったく関係のないところにいたんです。

20代の後半で潰瘍性大腸炎が見つかりました。薬を飲んでいたのですが、だんだん効かなくなって、悪くなる一方で。妻の実家の縁で、伊豆にある食養家・秋山龍三先生の道場を紹介してもらいました。そこで教わったのが柿酢だったんです。

——どのような食生活だったのですか。

毎日お猪口一杯の柿酢を飲んで、あとは玄米と魚と野菜。それだけです。柿酢だけでどうこうという話ではなくて、食べるもの全部を入れ替えたんです。半年ほど続けたころに、少しずつ変わってきた感じがありました。

発酵タンクの前に立つ宮嵜博之さん
発酵タンクの前で。もとはシステムエンジニア、街づくりの会社を経て醸造の道へ進まれたそうです

——ご自身の体験を仕事にしようと思われたのは、いつ頃ですか。

自分の体を壊したこと自体、結局は自分の自己管理の至らなさなんですよね。そういうことを経験して、この柿酢をつくりたいということになったのは、自分の体を守る、そして家族の体を守るという延長上なんです。それをお客様に届けたいということなので。

薬だけに頼らず、食を見直すという道もある。同じ病気で悩んでいる人に、その選択肢を伝えたかった。それが始まりです。

香取に移ってから、失敗しなくなった

——もともとは埼玉で醸造されていたと伺いました。

そうです。埼玉から香取に移ってきました。

——別の候補地もあったのでしょうか。

長野県の上田市を考えていました。きっかけは、長野は食育がすごく盛んだという話を聞いたことです。児童が荒れてしまった小学校で、給食を和食中心に変えたら、子どもたちが落ち着いた性格になったという話もあったので上田で柿酢を作ろうと考えていました。ただ、上田は寒いんですよ。寒いと発酵が進まない。それで諦めました。

——最終的に香取を選ばれた理由は。

ひとつは私の実家が近かったこと。それと、この土地です。香取神宮が近くにあって、土壌も地域の気もいい。土地や空気にいる細菌がいいから、美味しく発酵してくれるんです。

醸造所の近くにある香取神宮の楼門
醸造所のほど近くにある香取神宮。「土地や空気にいる細菌がいい」と博之さんはおっしゃいます

柿だけを、水を一滴も加えずに

——数ある果物の中で、なぜ柿なのですか。

柿は糖度が12度から14度あって、発酵したあとのアルコール濃度が6〜7%になります。これが酢酸発酵にちょうどいいバランスなんですよ。だから何も足さなくていい。自然発酵が完全単体でできるのは柿だけだと思います。

——水も加えないのは、そのためですか。

加える必要がないんです。果汁飲料の表示には規格があって、水で薄めても「100%果汁」と表示できる場合があると聞きます。でもうちは水も酵素材も一切使いません。柿だけです。

——柿はどちらから。

茨城の霞ヶ浦周辺の柿農家さんです。もう10年以上のお付き合いになります。2024年は酷暑とカメムシと雨で、例年の半分くらいしか採れませんでした。年によって、まったく違います。

——仕込みはどう進むのでしょうか。

秋に柿が入ってきたら、ヘタを取って、洗って、天日で干します。それから種も皮も一緒にカットしてタンクに入れる。この仕込みが3週間くらいで、その間は毎日8時半から17時半まで作業です。

そこからは柿に付いている酵母が勝手に働いて、糖分をアルコールに変えていきます。秋から冬にかけて、柿はぐずぐずにとろけたようになります。

——春になると。

酢酸菌が舞い降りてくるイメージでしょうか。その前に酒袋にもろみを入れて、手で搾ります。搾った液は、酵母の香りがする、いわゆる柿ワインですね。気温が上がってくると、そこに酢酸菌が働いて、お酢に変わっていきます。

※もろみ=発酵中の柿がどろりとした状態になったもののことです。ここから液体を搾り出していきます。

醸造所に並ぶ発酵タンク
タンクごとに仕込んだ年が記されています。年によって酢酸菌のバランスも変わるそうです

——一般的な柿酢は4ヶ月ほどで完成すると聞きます。

うちは8月まで発酵の期間を置きます。そのあと3年以上熟成させます。時間でしか出ない深みとコクがあるので。

最初のころは柿の尖った風味というか、エネルギーの塊みたいな感じで、酸が立っています。それが寝かせるうちにまろやかになっていく。

——温度の管理はされているのですか。

していません。人工的に温度を操作せず、四季のリズムにまかせています。年によって酢酸菌のバランスも変わりますし、タンクが切り替わった段階で味が変わるというのも大前提です。

——濾過も火入れもしないと伺いました。

濾しすぎると、酵素も酢酸菌も旨味も出ていってしまいます。だから濾さないし、熱も加えません。生きたままです。表面に酢酸菌の膜が張ることがありますが、食べていただいて問題ありません。

——生きている、というのは。

味が変わっていくだけで、悪くなるということがないんです。生きてるので。期限は表示していますけど、それを過ぎたら駄目になるというものではなくて、品質が落ちることもないですし、置いておくほど旨味になっていく。

——成分表を公開されていないのは、なぜですか。

あえて出していないんです。柿の成分表ってあるじゃないですか。あれを全部足したら柿ができるのかというと、できないじゃないですか。

——確かに、できないですね。

そうじゃない部分で出来上がっているものなのに、成分だけ言ったところでどうするの、という話なんです。結局、まだ人間が分かっていない部分の中で自然界が成り立っている。それが大前提なので。今わかっている成分だけを並べても、見えないところの良さは伝わりません。

「酵素酢 柿の神髄」のボトル2種と柿の実
原料は柿だけ。水も酵素材も加えずにつくられる「酵素酢 柿の神髄」

たくさんの人に知ってもらうことが、最終目的ではない

——いちばんのお客様は、どんな方ですか。

和美さん:食に対する意識の高い方と、ご家族のことを考えている方が多いですね。自分だけでなく家族の健康のためにも、という方もいらっしゃいます。

10年やってきて、お客様からクレームをいただいたことがほとんどないんです。自分の意見をちゃんと持っている方、自分で判断ができる方が多いんだと思います。何でもかんでも教えてくれ、とはあまり言われません。

——選ぶ基準が、成分や効能ではないと。

和美さん:「これが入っているからいい」「こういう効果があるからいい」というお客様は、あまり多くないですね。目に見えない部分の良さを感じてくださる方が多いように思います。

——高島屋さんなどでも販売されていますね。

定期的に販売に立っています。品質を知っていただくと、「作ってくれてありがとう」と言ってくださるお客様が、たくさんいらっしゃいます。

天日干しされている大量の柿
秋、茨城・霞ヶ浦周辺の農家から届いた柿を天日で干していきます

——広く知られることを、あまり目指されていないように感じます。

たくさんの人に知ってもらいたいから、というのが一番最終ではないんですよ。届けるべきところに届けばいいと思っています。

普段からお客様おひとりおひとりと丁寧なコミュニケーションを心がけています。それだけでなく、お酢を介して、想いが伝わるものがあると思っています。

——それは、お客様に伝わるものですか。

伝わっているように思います。お客様からも「そちらの思いが伝わってきます」という声をたくさんいただいております。言葉にしなくても、届け方ひとつで、あるいは飲んだときの感覚で伝わるものがあるんだと思います。

——どんな使い方がおすすめですか。

和美さん:和え物やピクルス、餃子などの肉料理にも合います。お刺身には、数滴かけて召し上がってみてください。

届くべきところに、届けばいい

——これから、どんな方に届いてほしいですか。

うちのお酢と出会った時に、自分にとって必要だと感じてくださる方でしょうか。

日常の美味しいものを楽しみながら、自分の体が健やかに包まれたらいいな、と。

ただ、一番大事なのは、人間も自然の一部ですから、そのもとで生活させていただいている、その感謝の念だけは絶対に忘れちゃいけない。それを届けたいというのが、背景にはあるんですよ。自分たちが生かされているということを、生活の中で感じてもらえたらいいなと思います。


柿だけを、水も足さずに、三年。

秋に仕込んだ柿が、冬にとろけ、春に酢へ変わり、瓶に入るのは、仕込みから数えて四度目の夏を越えたあとだといいます。その間、宮嵜さんご夫婦がされているのは、温度を操ることでも、手を加えることでもないようでした。柿と、この土地の菌と、四季にまかせて、待つこと。そんなふうに感じました。

だからこの酢には、その年の天候も、そのタンクの癖も、そのまま残るのでしょう。同じ味が続かないことを、おふたりは「大前提」とおっしゃっていました。

まずは食卓に置いて、いつもの一皿に数滴。三年分の時間が、そこにあるのだと思います。

【酢之宮醸造所】 千葉県香取市新部474-1 公式サイト:https://kakisu.com オンラインショップ:https://sunomiya.stores.jp/

よくある質問

柿酢はどんな味ですか?

熟成が進むとまろやかになり、ツンとした刺激が少ないと言われます。酢之宮醸造所さんの「酵素酢 柿の神髄」は3年以上熟成させているため、酸の角が取れた味わいになるそうです。酸味が苦手な方は、納豆や餃子のたれ、唐揚げなどに数滴かける使い方から試してみてはいかがでしょうか。

なぜ柿だけで酢ができるのですか?

柿は糖度12〜14度、発酵後のアルコール濃度6〜7%と、酢酸発酵にちょうどよいバランスを持っているそうです。そのため水や糖を足さずに、柿だけで発酵させることができるといいます。酢之宮醸造所の宮嵜博之さんは「自然発酵が完全単体でできるのは柿だけだと思う」と話されていました。

「にごり酢」とは何ですか?

濾過や加熱(火入れ)をしていない、濁ったままの酢のことをいいます。酢酸菌や酵素が生きた状態で残るとされています。表面に酢酸菌の膜が張ることもありますが、品質に問題はなく、そのまま召し上がれるそうです。

この記事で紹介した一本